以下に私が最近読み終えた書物についての感想を綴りたいと思います。皆様には幼稚な読後感かも知れませんが。「一言言いたい」と思われる方がおられましたら、ぜひ、感想をお寄せ下さい。
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154回(27年下期)芥川賞 (2016.2.25読)

 前回話題になったというか、非常に盛り上がった、 又吉直樹の『火花』を読んで、その結末への違和感からここに記載する気にはなりませんでしたが、今回の受賞二作品についても同様、作品の中身をここでコメントする気にはなりません。しかし、大昔、中学高学年のころからしばらくは、毎回受賞作をむさぼるように読んでいた芥川賞には、今でも思い入れは残っています。その頃、大江健三郎や開高健、そして石原慎太郎などなどを読んで、仲間と大いに語り合ったものでした。

 さて今回の受賞作、「異類婚姻譚」のとっつきで、長年連れ添うと夫婦の顔が非常に似通ってくるという記述があり、これが作品全体に重要な意味を持ってくると思うんですが、そんなことはないんじゃないかという気がして、どうも作品にはのめりこめませんでした。そして思いもかけぬ結末。なんでこうなるの?。
 「死んでいないもの」については、最初は我慢して読んでいましたが、長々と通夜・葬儀に集まった親族の説明が続くので、とうとう放り投げてしまいました。どうも、説明ではなく、この記載が本題なのでしょう。

 今回に限らず、これまでも時々芥川賞受賞作品を読んで、この読後感に記載しないままとなっていましたが、どうも最近の私は、このジャンルの小説(芥川賞の対象となる作品)には馴染めないようです。題材や表現に工夫を凝らすのではなく、ストーリー作りに力を入れてもらいたいと願うのは私だけでしょうか。

「孤高の人」 新田次郎 (2014.11.25再完読)

 新刊のころ、この著を読んだ記憶がありますが、図書館でふと見つけて再読することにしました。というのは、雰囲気は覚えていますが、内容についてはよく覚えていないからでした。そして再読してみると、昔読んだとき以降に単独で山に登る数多くの経験を積んだ私には、本著に出てくる多くのコースに私の登った経験があったこともあり、この書が実感として迫ってくるものがありました。
 私には、極寒の高山登山の経験はありませんが、主人公の加藤文太郎は、冬山にこそ山に登る意義を感じていたようです。信じられないくらいはやい速度で、荒れた天候の中を走破していく彼には、「なぜ山に登るのか」といったような問いかけは意味がないと思います。なぜなら、その時には、山と格闘し、山を楽しむことしか頭にないはずだからです。むしろ、重いザックを背負って家を出発するときにこそ、問いてみたいような気がします。
 実在した孤高のアルピニストを、彼の妻と、彼の理解者であり上役だった人に徹底取材した新田次郎の力作だけに、彼の人となりが読み手にしみこんできます。そして、彼が遭難に向かって徐々に引き込まれていくさまは、読んでいてつらく、悲しいものでした。孤高の人にも、死に際に思いを馳せたであろう、妻とまだ生まれたばかりの娘がいたことが、読み手の私に救いになったのでした(もちろん、妻子にとっては悲しいことですが)。

「激走! 日本アルプス大縦断」(2014.9.28完読)

 2年ほど前、NHKスペシャルで表題の番組を見て、度肝を抜かれた覚えがあります。富山湾から出発し、北、中央、南アルプスを超え、駿河湾まで走り(歩き)通すというレースの模様を、NHKクルーズが密着して取材したものです。
 とにかく、過酷という表現では言い尽くせないレースで、選手は、ろくに睡眠を取らずに、雨が降ろうが、風が吹こうが、夜昼関係なく走り続けます。山登りを経験し、コースのかなりの部分を歩いた経験のある私ですが、いくら時間を掛けてもたどり着けないだろうなと思うコースを、なんと、5日間6時間あまりから、制限の8日間の間に走破するのですから驚きです。
 レースの模様を映像で見るのと違い、この書では、各選手のバックボーンから、本レースへの思い込み、レース中の状況や、精神状態まで、事細かに記載されていて、非常に興味深く読むことが出来ました。多くの選手が、体力が極限状態まで消耗する中、ギリギリの精神状態まで追い込まれ、幻影を見たり、思考力が失われてなお、走り続けるさまは、すさまじいものがあります。
 感動させられるいろいろな選手の状況記述をあげればきりが有りませんが、制限時間が過ぎてなお、走り続け家族や、仲間や、駆けつけた多くの一般の人に迎えられて深夜にゴールする岩崎さん。感動しました。

「至高の決断」 小松英樹 (2008.9.12完読)

 囲碁の名人戦の棋譜をウエブで追いかけていた時だと思いますが、この本のPRに目がとまり、即座にウエブで注文して手に入れました。 序盤の次の一手を、依田、山下、井山のトッププロが別々に解説するもので、その違いや共通点が比較できて大変面白く読みました。 各人の持ち味が垣間見えて、というより鮮明に出ている場面もあり思わず引き込まれてしまいます。 特に、10代で初の名人戦の挑戦者となり、今をときめく張名人に先勝した井山裕太が一味違った見方を示すのも嬉しい気持ちになります。 もちろん、三方が共通して断言するところも多く、プロの見方が大変参考となります。 小松プロの出題碁への思い入れや、まとめも読み応えがあります。

「ダ・ヴィンチコード」 ダン・ブラウン (2006.5.22完読) 

 ここ3年ほど、小説を読むよりもやりたいことが多くて、実に久しぶりの読後感となります。 本著は、もちろんかねてよりベストセラーとして有名でもあり、その題名に惹かれるところもあって読みたい読みたい本のひとつでした。 ここにきて、映画も封切られ、とにかく読んでおかなければという思いに駆られて一気に読んだ次第です。 
 さて、本著は、活劇ふうのストーリーの展開で味付けされてはいますが、聖杯伝説の解説本、あるいは、新解釈本というところではないでしょうか。 活劇面のストーリーは展開にちょっと無理があり、稚拙な感じも受けます。 小説としては、以前この稿でも紹介した、やはり聖杯を巡るストーリーが展開される坂東眞砂子著「旅涯ての地」のほうがずっと上だと思います。 しかし、聖杯、女神信仰などなど、キリスト教の源流とその後の裏の展開を探る記述には興味をそそられ、「ふーーんそうなんだ」と言うような感じで楽しく読むことができました。 しかしながら、いくつもの殺人事件を引き起こしてまで必死に追い求められてきた「秘密」が(場所だけは)、明らかになったらしい結末のなんとさっぱりしていること。 結末のもっていきようがないんじゃないかと心配して読んでいた私にも、ちょっと物足りないものがありました。 映画はこの結末を変えているようですが、そちらに期待しましょう。

「一瞬の光」 白石 一文 (2005.6.7 完読) 

 久々に読後感を書くことになった作品ですが、どう書いていいか難しい作品です。 私としては、企業の中での主人公の生き様が自分と重なって(もちろんレベルはだいぶ違いますが)面白く読めました。 しかし、そういう世界と全く異なる次元の男女間の意識のつながりというか、かなり複雑な恋愛感情というか、そういうテーマがちょっとちぐはぐに展開していって、これがメインテーマであることは言うまでもありません。 正直言って、不幸な生い立ちを背負った女主人公とエリートサラリーマンの主人公とのもつれあいには不自然なものを感じましたしが、こういった異常な展開でこそ表現し、読み取ることの出来るものもあるのではないかと感じました。 また、ところどころの会話部などで展開される作者の所信(?)が面白く、興味深く読めました。

「死国」 坂東 眞砂子 (2003.2.10 完読)

 この作者の作品は、物語の構成と言い、表現と言い、ちょっと装ったところがあり、それが私には心地よい印象を覚えます。 この作品では、死者がよみがえるとか、死者が現世の人に物理的影響を与えるとか、現世の人と交流するとか、そんなことが主題になっていて、それを真っ正面から堂々と描いています。 人間が必ずと言っていいほど持っている、死者へ思い慕う心や死者への畏れを土俗的な雰囲気の中に描いていて、ちょっとぞくっとする読後でした。

「理由」 宮部 みゆき (2003.1.17 完読)

 「宮部みゆきの最高傑作」と帯が謳っていました。 一つの不思議な殺人事件をめぐって、それに関わる人々にインタビューする形で謎解きが進んでゆきます。 一人一人のバックボーンや繋がりが克明に鮮やかに語られ、初めのうちはそれに引き込まれていきましたが、端役に至るまでの登場人物についてあまりにも詳しく述べられるため、だんだんいらいらがつのるようになりました。 何でこんな不思議な事件が起こったのか、登場人物を描くことによってだんだん明らかになっていくのですが、これはルポルタージュ形式の記述なので、推理の面白味はありません。 TVのワイドショーを何週間分も見て満足するようなそんな読後でした。 見事な作品であると言える面はあると思いますが、私には何の感動もありませんでした。

「天国への階段」 白川 道 (2002.12.3 完読)

 この作品については何の先入も観なしに(西山さんの薦めにより)読みましたが、読後、テレビドラマ化されて話題になったベストセラーであることを知りました。 もちろん、書店の店頭で見かけたことはあったのですが、題名のうさんくささに手を出さなかったのでした。 本著はなかなか読み応えのあるもので、自分と父の基盤を奪った男への復讐を誓う主人公が成り上がっていく過程で犯した罪。 それが元で主人公に対して復讐を誓う男。 このダブル復讐劇が進む中で、男と男の信頼の絆、男と女の愛の絆、血のつながりによる絆などが描かれ、事件解明に粘りを見せる警部の愛も加わり、どんな結末になるんだろうかと引き込まれていきました。 主人公に優しい終わり方で結末を迎え、エピローグでは思わず嗚咽を漏らすなど、感動に包まれた読後でした。 でも今冷静になってみると、ちょっと作りすぎの物語と、あまりにもきれいすぎる結末が少し気になる作品に思えます。

「サンカルロの対決」 A.J.クィネル (2002.11.15 完読)

 中米に設定された小国サンカルロで革命が起こり、米駐在大使らが人質になる。 奇想天外な救出劇が繰り広げられるのですが、同時に、米大使が握る秘密を聞き出そうとキューバの尋問専門家が秘術を尽くす。 このやりとりが非常におもしろい。 尋問専門家の人となりが非常に魅力的ですが、彼もまた、作者クイネルの毒牙にかかることになります。 救出そのものは、予想通り着実な成果を上げるわけですが、本作品の魅力は、そこに至るまでに大使館内で繰り広げられる人間と人間との葛藤にあるように思います。 蛇足ですが、最後に米大統領がすばらしい人物に描かれているところが何となく気になる結末でした。

「パーフェクトキル」 A.J.クィネル (2002.10.23 完読) 

 クリーシー(燃える男)シリーズの第2弾です。 冷徹、冷静、完璧。 クリーシーの特徴を遺憾なく発揮した復讐アクション。 しかし、彼を燃え立たせる動機付けとして、彼の愛する人たちを次々に殺していく著者。 彼が愛しているだけでなく、読者も愛するようになっている人たちをあっけなく殺していく。 愛がはぐくまれていく過程の記述が素晴らしいだけに、読む人にとってはつらいことになります。 本著は、前作「燃える男」で愛する人となったナディアと愛娘の死体を確認するところから始まります。 それを涙一つ無く冷静に見下ろすクリーシー。 私はここであまりのことに読むのを止めようと思ったほどでした。 私もナディアを愛していたのでしょう。 物語のお膳立てのためにこの様な設定をする作者クイネルは絶対に許せない。 そう思いつつも、完読した次第でした。

「好きなことだけやればいい」 中村修二 (2002.10.5 完読) 

 この本も「シフォン」さんから頂いたもので、今話題の青色発光ダイオードの発明者が信条を吐露したものです。 分野は違いますが、企業の研究者として勤めた私にとってもなかなか考えさせられる作品です。 こんな部下が欲しかったと思えるような研究者であり(こんな部下ばっかりでも困りますが)、発明に至るまでの軌跡には素晴らしいものがあります。 ただ、日本の受験制度を廃止すれば全てが良くなるとか、アメリカ至上主義とも言うべき考え方には偏った思いこみがあり、彼の良い点でもあり、青さでもあるように思います。 全ての学問が起業(ベンチャー)に結びつくものでなければならないと思っているかどうか知りませんが、アメリカの大学の商業への偏向が見直される時代がやってくるように思います。
 もし彼が、アメリカの企業にいたとしたら、この発明が完成する前に首になっていたような気がします。 日亜化学と言う日本の企業でこそ、この発明が出来たと思いませんか。 

「人生百年 私の工夫」 日野原重明 (2002.9.27 完読)

 この本は、私の退職に当たり府中市のフレンチレストラン「シフォン」さんから餞別としていただいたものです。 同レストランは、地方都市にありながら、本格的なフレンチを食べさせてくれる評判の店で、私もお客さんが見えたら必ずと言っていいほどここでおもてなししたものです。
 さて、本書ですが、60歳から第2の人生が始まるという内容で、いろんな面からどう生きるかを述べてくれています。 一読すると当たり前のことが羅列されているように思えます。 しかし、一つ一つが成る程と思わせる内容で、何か勇気づけられるというか、一丁やらなければと思わせてくれます。 私にとってのこの時期に打ってつけの本と言え、シフォン経営のご夫妻に心から感謝するものです。

「燃える男」 A.J.クィネル (2002.8.27 完読)

 これも西山さん推薦のクィネルの作品第一弾です。 元傭兵でアルコール漬けとなって失意の内に過ごす主人公が、ひょんなことから小学生の少女のボディーガードとなり、少女との交流から立ち直っていく。 このあたりの描き方が素晴らしい。 もちろんこの後の筋書きにとって、ここが素晴らしいことが主人公の行動の動機付けとして重要なところでしょうが、この少女との関係をこわさずに違った小説を書いて欲しかったと思うほどです。 しかし本作品は、いわゆる活劇の世界へと展開してゆきます。 ランボーを思わせる強力な肉体を武器に、冷徹ともいえる冷静さでマフィアに立ち向かってゆく。 これはこれで痛快な物語ですが、体力づくりのために逗留する地中海の島で巡り会った女性との愛の交換や島民との交流など、文芸作品としても素晴らしい部分があり、これがこの小説をより深みのあるものにしているように思いました。 

「大地の子」 山崎豊子 (2002.8.16 完読)

 大学時代の友人西山さんの薦めで読みましたが、確かに読み応えのある大作でした。 私も満州で生まれましたが、幸い終戦より大分前に日本に帰っていましたので難を逃れました。 しかし、中国孤児になった人たちは、ちょうど私の年齢と同じくらいの人が多く、人ごとのように思えません。 主人公は、孤児の中でも良い里親に恵まれ大学まで卒業できた優秀な人材ですが、日本人であるがためにどれだけ多くの苦難を味わうことになったでしょう。 それはもう筆舌に表しがたいもので、別れ別れになった妹にいたっては、人間未満とも言うべき生涯を過ごすことになります。 そんな主人公が、日中共同による最新鋭の製鉄所の建設に携わり活躍する様子が、中国の政争に振り回されるプロジェクトの進行とともに描かれ、スケールの大きな展開の小説になっています。 運命の不思議とも思える父親との対面、日本への募る思い、里親への背負って背負いきれない恩、そして、最終的には中国人(大地の子)になりきろうとする主人公。 感動、感動の物語でした。

「怒濤のごとく」 白石一郎 (2002.7.25 完読)

 久しぶりに海洋ものを読みたくなり本書を手にしました。 「明」から「清」に移り変わる時代を生きた鄭芝龍、鄭成功親子が台湾、中国で活躍する様を壮大に描いた物語です。 私がこれまで読んだ作者の痛快な海洋ものとはひと味違い、吉川英治賞に輝いただけのことはあり、特に鄭成功の人柄を冷静に描いた重みのある作品になっています。 単なる英雄物語にしなかったところが評価されているものと思われますが、それだけに、私にとってはもう一つのめり込めなかったかなという読後でした。

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「凛冽の宙」 幸田真音 (2002.4.25 完読)

 日本に溢れている不良債権。 この処理を巡って、暗躍する外資系金融機関。 不良債権をも利益のソースにしてしまう外資に対して、無防備に血を吸い取られる日本企業(日本国とも言ってよい)。 しかし、これらの暗躍は、法律の規制すれすれの行為となり、当局の眼が厳しく光る。 こんな状況の中、国内の外資系金融機関の代表者である主人公が、パリ本社の責任者に操られながら、自分がはじき出されていく真相を追求してゆきます。 元ディーラーであるからこそ書ける、迫真に満ちた物語で、またまた大がかりなからくりに驚かせられることになりました。 

日本国債 幸田真音 (2002.2.25 完読) 

 日本国債の取引に対する当局の関与に不満を持つ主要トレーダーたちが、インターネットのチャットを通じて意志疎通を図り、市場に衝撃的な一石を投じる。 これに関与した人の中には、野望を果たそうとする大物政治家やこれを機会に大儲けをもくろむ投資機関がいるが、彼らが強烈なしっぺ返しを食らうというストーリーである。 物語を通じて、日本国債の危うい部分が浮き彫りにされ、何とも怖い思いをさせられました。

「千里眼 ミドリの猿」「千里眼 運命の暗示」 松岡圭祐 (2002.2.1 完読)

 前作「千里眼」の思わぬおもしろさに、本作品(2つで1作品のようなもの)を読みました。 中国15億人が岬美由紀にそして日本に憎しみを感じ、まさに総攻撃を仕掛けようとしているという大胆な設定に度肝を抜かれながら、なぜこんなことになったのだろうかと読み進めていくと、中国に拉致された岬由美子が中国の大群衆に囲まれて絶体絶命の危機を迎えながら、一瞬の行為で全てを解決してしまう。 私はこの場面を新幹線の中でトランス状態になりながら読み進めていたこともあってか、思わぬ展開への驚きと感激と喜びと作者への賞賛などが入り交じった複雑な感動を覚え、目頭を押さえた次第でした。

の悲劇」 幸田真音 (2002.1.22 完読)

 元大手銀行に勤め、外資系証券会社に移ってトップトレイダーとして活躍するも、部下のチョンボの責任をとって退職した男が、妻子にも別れを告げてビル警備員の職に就く。 職務上関わる銀行やコンサルティング会社での出来事を通じて綴られる金融・新産業界における明と暗。 コマースに代表されるデジタル文化導入による明と暗とも言え、大変興味深く読みました。

「千里眼」 松岡圭祐 (2002.1.13 完読)

 元自衛官でパイロット、現在カウンセラーの岬美由紀が数々の事件に巻き込まれながら、オーム真理教と007のスラッシュをミックスしたような恒星天球教の陰謀を暴き活躍する物語です。 催眠状態に導かれた多くの信者が命じられたままに働かされている様はちょっと素直に受け入れられない面がありますが、それを忘れさせてくれるようなドラマティックな展開は、アメリカ映画を見ているような面白さがあります。 このような次から次へと複雑な展開を計算しつくして描ける作家が日本にもいるんだなと感心した次第でした。 また、刑事蒲生との間に絆が出来ていくところなんか、本当にうまく書けています。

「催眠」「後催眠」 松岡圭祐 (2001.12.30 完読) 

 元カウンセラーの作者が豊富な知識を膨らませて書いた作品だけに、多重人格障害というちょっと無理な設定にも関わらず、若い女性の変身ぶりをなかなか説得力のある描写で描いています。 主筋とは少し離れていますが、パチンコ遊戯中に回るドラムを見つめていると軽い催眠状態となりいつの間にかお金をつぎ込んでしまうと言う記述がありましたが、思い当たるところがあり非常に興味深く読みました。 しかし、「後催眠」となりますと読ませる力はありますが、さすがにそんなことはあり得ないだろうと言う設定に、少し引けるものがありました。

「凍りつく心臓」 ウィリアム・K.クルーガー (2001.12.11 完読)

 アメリカの新人の処女作にして、アンソニー賞、バリー賞をダブルで受賞した作品です。 いかにもアメリカの小説と言った感じで、アメリカ映画に出てきそうな場面が随所にちりばめられています。 アメリカインディアンの血を受け継ぐ元保安官の主人公が、不思議な連続殺人事件を追う話ですが、離婚寸前の妻、妻の愛人、自分の愛人が絡み合い、悲しい代償を払ってたどり着く結末。 何とか書き直してもらいたいと切に願った読後でした。

「ホームレス作家」 松井 計 (2001.10.31 完読)

 20冊もの小説を世に送った実績を持つ作家の著者が、精神的機能障害を持つ妻と幼い娘との生活を破綻させまいともがいている間に無一文となり、妻子を施設に預けてホームレス生活に。 世捨て人にはならず、完全なホームレス人にならず、必死で這い上がろうとする著者の、生々しくも身につまされるような記録です。 ポケットにほとんどお金の入っていない生活をいかに生き抜くか。 随所にそのノウハウがちりばめられていて感心させられますが、こんな境遇になったからこそわかる人々の冷たさと暖かさを実感させられる作品です。 ただ、対人面で全ての人とは馴染んでいけない所が著者にはあるのではないかと感じられ、少し気になりましたが、私の思い過ごしかもしれません。 納得のいく生活と言いましょうか、月並みな言い方でいえば、幸せな生活が著者に訪れることを心から望むものです。

「旅涯ての地」 坂東 眞砂子 (2001.10.14 完読)

 宋人と倭人の間に生まれ、密貿易者として成功していた主人公が、奴隷の身となり、マルコポーロに仕えてイタリアへ。 ふとしたきっかけでキリスト教異端派と関わることとなり、急展開する人生。 あくまでも信仰する身とならないいわゆる俗人の主人公が、敬虔な信者達の信仰心と迷いを目の当たりにしながら、異端であるが故に滅び行く宗派と最後を共にする。 イエスの聖杯を巡る物語でもあり、女性信徒との禁じられた愛の物語(ちょっと綺麗すぎ?)でもあります。 最後に明かされる「マリアによる福音書」の中身と、女性信徒との最後の触れあいとが重なり合い、感動的な結末となっています。 この作者の作品を数多く読んでいるわけではありませんが、何となく期待していると、それに応えてくれるような気がします。 もう少し、脇道描写を省略してくれるともっと良いのですが。

「聖の青春」 大崎 善生 (2001.9.24 完読)

 将棋界に彗星のごとく現れた奇才 村山 聖。 もの心がついてからの闘病生活(ネフローゼ)にもめげずA級に上り詰め、念願の名人に後一歩というところで29歳の人生を終えた男。 その男のある意味で壮絶な物語(記録)です。 著者は将棋雑誌の編集に携わる文筆家ですが、村山が慕った数少ない先輩の一人として、時には村山の屈曲した精神構造からくる言動を冷静に描きながらも、全編を通じて暖かい記述で村山を偲んでいます。 惜しい人材を亡くしたという思いが著者と読者が分かち合える好著だと思いました。 そして、触れずにはいられないが村山の師匠森信雄の存在です。 かまわれるのが元々好きでない村山に対して、献身的ともいうべき態度で尽くします。 両親の息子への思いとともに、村山が短い人生の中にも栄光を求めてばく進できた大きな原動力となったように思います。 それにしても惜しい人を亡くしたものです。

「神々の山嶺」 夢枕 獏 (2001.9.1 完読)

 この夏、山行の前後でアルプスとか山の名前が付いた題名の推理小説をいくつか読みましたが、感想を書く気になれないでいたところ、集英社のナツイチに選ばれている本著を書店で見つけ、迷うことなく購入してきました。 ちょっと作り過ぎかなと思うところとか、しつこい描写で読み飛ばさなければならない(怒られるかも)ところがありましたが、結構引き込まれて読むのを中断するのが惜しくて、思わず深夜にまで及んでしまいました。 天才クライマーとそれを見守り、山への執着を断ち切れないカメラマン。 彼らほどの高度な登山をするわけではない私ですが、本作品を読みながら、なぜ山に登るのだろうかと幾度も自分に問いかけることになりました。 8000mを越える高所でクライマーが遭遇する現実と幻の境、生と死の境。  これらの描写が非常に印象的な作品で、特に主人公のカメラマンがエベレストの氷壁で天才クライマーに助けられる場面の記述には深い感動を覚えました。

「マネーメイカーズ」 ハリー・ビンガム (2001.7.25 完読)

 大企業の盟主が突然他界し、三人の放蕩息子と一人の娘に残された遺書。 それは、三人の息子の内三年間に100万ポンド以上で最も多くの金を貯めた者に会社の継承権を与えるというものでした。 それから壮絶な金稼ぎレースが展開されます。 レースの行方もさることながら、それぞれがたどる人生の浮き沈み。 ジェフリーアーチャーを思わせる絶妙なタッチで楽しませてくれます。 作者が金融業経験者であることもあって金稼ぎの方法もなるほどと思わせるものです。 物語はなんとなく感じていた様な愉快な終局を迎えます。

「ザ・ゴール」 エリヤフ・ゴールドラット (2001.7.8 完読)

 この著は作者が提唱するTOC(Theory of Constraints)なる生産性改善のための手法の手引き書と言えますが、文芸作品としても人を引きつけるものがあります。 これが、アメリカで250万部以上売り上げている源といえるのでは無いでしょうか。 内容は工場で生産に携わる人かあるいはそれに関連している(営業も含めて)人にしか興味がないだろうと思われるものですが、これだけ多くの人に読まれているのには驚かされます。 作者が、この著の日本語訳をこれまで頑として拒んできたのは、この手法が日本に浸透するとますます日本が経済的に台頭することを恐れたからだということです。 とにかく面白い、一気に読みました。

「チーズはどこへ消えた?」 スペンサー・ジョンソン (2001.3.31 完読)

 こんな短い、例え話のような書き物がなぜ多くの人々の胸を打つのでしょうか。 本著に登場する主人公の一人「ヘム」の存在があるからだと思います。 環境が変わってもそれを否定し、変わろうとせず、新しい道を切り開く行動をとれない人。 どこにでもいる人であり、ひょっとして自分も?と思い当たるからだと思います。 あるいは、自分だけは違うぞと思うからでしょうか。

「ビリーの死んだ夏」 リーサ・リアドン (2001.3.21 完読)

 アメリカ田舎町の決して裕福でなく道徳的でもない家族。子供たちも大きくなり今は同じ町でそれぞれが別々に暮らしていますが(両親は離婚、母親は再婚)、長兄が何者かに殺害されるところから本作品は始まりまります。 葬儀までの4日間の出来事が、主人公次男の回想シーンと共に記述されていきます。 絶妙なタイミングで挟まれる回想で、彼らの生い立ち、家族全員の人なり、父親の家庭内暴力と末娘への性的虐待、長兄の妹及び娘への性的虐待、主人公の妹への家族愛を越えた恋慕などが、これでもかこれでもかと生々しく迫ってきます。 長兄が誰に殺されたのかと言う謎解きよりも、一見めちゃくちゃな家族の間に、時たま生じる家族愛の記述が印象的な作品だと思いました。 本著は、2000年度本の雑誌編集部が選ぶ文庫ベスト10の第2位に選ばれた作品です。

「スタンド・アローン」 ローラ・リップマン (2001.3.7 完読)

 女私立探偵テス・モナハンのシリーズものの一つで、アンソニー賞、アガサ賞ダブル受賞を始め数々の受賞を受けた作品だそうです。 確かに従来の探偵ものとは違い、テスの日常(家族との交わりなど)の行動が長々と記述されていたり、全く違う二つの依頼にまつわる出来事が同時進行的に記述されていたりで、洒脱な作品だと思いましたが、それだけに集中できずに物足りない面もありました。 直訳調の翻訳から察するに、英語独特の形容詞的な従属文の多い原文であろうと思われ、原文と本翻訳を読み比べれば、英文和訳の良いテキストになるのではないでしょうか。

「ハリー・ポッターと賢者の石」 J.K.ローリング (2001.2.6 完読)

 去年からこの作品を本屋の店頭でよく見かけたのですが、何か胡散臭い気がして敬遠していました。 しかし、どの本屋の店頭にも積み上げられているのをみて無視できなくなり読むことにしました。 確かに世界中でベストセラーになっているのもうなずける面白さで、作風は全く違いますが、子供の頃トムソーヤやハックルベリーに魅せられたような感覚を覚えました(ちょっと違うかな)。 文句なく楽しめる、それだけと言えばそれだけですが、しばし人間の世界を離れられるのが良かったというのが読後感です。

「トップ・レフト」 黒木 亮 (2001.1.25 完読)

 トップ・レフトとは国際協調融資が成立したときに記念の置物(ツームストーン)が作られるが、融資銀行団のトップとして主幹事銀行の名が左上に記されるそうで、その座を意味すると言うことです。 そして、各融資が発生するたび毎にその座を競って世界中の銀行がしのぎを削る。 トルコにおける日系企業の融資を巡って、日系銀行、米国銀行(日本人が担当)の火花を散らす葛藤と暗躍する日系総合商社。 息をつかせぬ面白さに一気に読破しました。 本著は、フィクションの面白さと言うよりは、国際金融界ではこんなことが行われているのかということが良く分かり、実際に起こった金融界の出来事についての背景が理解できるなど、非常に興味深いものがありました。

「山妣」 坂東真砂子 (2001.1.8 完読)

 本著は「やまはは」であり、「やまんば」ではないことを読み終わって気がつきました。 里人は、彼女を山姥(やまんば)と呼びおそれますが、実は、幸の薄い生い立ちと、やんごとない事情から山に住み着いた、二人の子の母なのです。 離ればなれになりながら、再び巡りくる親子の出会いと、衝撃的な出来事、そして別れ。 確か本作は「直木賞」受賞作品だと思いますが、久しぶりに感動に包まれた読後感を味わうことができました。
 少し退屈な出だしを読み進んでいくと、いくつかの思いもよらぬ急展開に驚くことになりますが、後半に至ると、何人かの人のかたまりが、いくつかのグループに分かれて、最後の大団円に突き進んでいく。 どんな結末になるのだろうか、不安を感じながら読み進んでいくと、見事にそれらが織りなされて劇的な出来事が展開されます。 物語の構成が見事であり、その内容にも感動させられました。
 読後にしばらく消えぬラストシーン(映画を見ていたような気がします)が消えるのを惜しむかのように、この感想文を書き記しました。

「狗神」 坂東真砂子 (2000.12.14 完読)

 本屋で立ち読みして、出だしの善光寺での出来事あたりに興味を引かれて購入しました。 私も、四国の善通寺の本堂の地下で、真の闇を経験したことがありますので、このあたりの記述が真に迫ってくるようでした。 物語は、もう一つ迫りくるものが欲しいような気がしましたし、だらだら続く記述が気になったりしましたが、まあまあ面白く読むことができました。

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「ハイペリオンの没落」 ダン シモンズ (2000.11.14 完読)

 前作の面白さに惹かれて、読み始めたのですが、巡礼たちがどうなるのか時間の墓標の謎がどう解き放されるのか、なかなか物語はそちらには進まず、シモンズの描く大SF絵巻が繰り広げられることになります。 なるほど、28世紀にはこうなっているかもしれないし、こういうことが起こるかもしれないという点で興味深い点も多々ありました。 この物語を作るのにシモンズはものすごいエネルギーを要したことと思いますが、それだけに読むのにかなりのエネルギーが必要で、ようやくの思いで読み終えたときは、やれやれとほっとしたというのが本音です。 キーツの詩を反映した記述や哲学的なストーリー作りなど難解な点もあり、奥が深いという言い方もできますが、とにかく疲れました。 本屋さんで、続編のエンディミリオンの何とやらというものすごく分厚い本を見かけましたが、とても手に取る気が起こりませんでした。 面白かったけど疲れた、疲れたという思いの方が大きいというのが読後の感想です。

「ハイペリオン」 ダン シモンズ (2000.9.7 完読)

 28世紀、人類は地球を捨て銀河系の中に数多くの惑星でウェブを形成し、ウェブ域外の星々を含め支配しています。 しかし、宇宙の片隅にある星、ハイペリオンには時間の墓標と呼ばれる謎の場所があり、人類の信仰の対象にもなっていました。 そこは、抗エントロピー場となっており(何のこっちゃ)、シュライクと呼ばれる時間を未来から過去へとさかのぼっている超能力を持つ生き物(?)がとらわれているのです。 ここに興味を持つ宇宙の蛮族アウスターのしわざで今まさに時間の墓標が開封されようとしており、そうなればシュライクは解き放されるであろうし、なにが起こるかわかりません。 人類連邦は危機と感じて七人の巡礼を時間の墓標に派遣しその謎を解こうとします。 七人が時間の墓標に向かう旅の途中で七人はそれぞれのハイペリオンに関わるバックボーンを語り合います。 この各人が話す物語が本著の大部分を占めるのですが、それぞれの物語のなんと独創的なことでしょう。 作者の想像(&創造)力には驚くばかりです。 そして、彼らがいよいよ時間の墓標に向かって最後のアプローチをするところで本著は終わっています。 これじゃあ、続編を読むっきゃないと思わせる読後でした。

「三国志 知れば知るほど 市川 宏 監修 (2000.7.12 完読)

 中学一年生の頃、吉川英治著の「三国志」をむさぼるように読んだ経験があります。 今でも数々の名場面を鮮明に思い出すことができます。 劉備、関羽、張飛の活躍に胸躍らせ、孔明が曹操、仲達を相手に策略の限りを尽くすのを楽しみました。 また、曹操の死後長男の曹丕が跡目争いで弟曹植を殺すか助けるかを迷い、七歩あるく内に詩を作らせるという場面では、曹植の作った詩が曹丕が感激して命を助けたものだけあって胸に迫るものがあり、何度も何度も読み返して感動したものでした。
 ところが、この時代の流れとか、地理的な知識とかが全くと言っていいほど頭に残っていず、何時か読み返したいと思っていました。 先日ふと書店で本著を見つけたとき、小躍りしたくなるほどうれしくなり買い求めました。 本著は期待に違わず、簡潔な中にも「三国志演義」をベースに時代の流れ、登場人物の活躍・行動を所々地図を交えて書き記しています。 物語として読むには物足りないかもしれませんが、三国時代の全体をつかみ取るという私の目的にはこれ以上ないという作品でした。
 三国時代の知識が上がったところで、今まで躊躇していたゲーム「三国志」に挑戦したくなりました。

「メディア買収の野望」 ジェフリー・アーチャー (2000.6.23 完読) 

 著者独特の軽妙なタッチで、実在し、実在した二人のメディア王のしのぎを削る葛藤が描かれています。 相手に勝つためにはどんな手も使う。 最後のぎりぎりまであきらめない。 勝ったり、負けたりしながら巨大なネットワークを築きあげる二人。 しかし同じく暴走した二人に訪れる決定的とも思える危機。 それをぎりぎりしのいだ人と、挫折した人の明と暗。 息もつかせぬストーリー運びに酔いしれた読後でした。

「重耳」 宮城谷昌光 (2000.6.10 完読)

 春秋時代に名を残した君主の一人で斉の桓公と並び称される、晋の国の重耳の物語です。 重耳は、晋の公子に生まれながら、後添いの若き后に惑わされた父により、国を追われ、刺客をさし向けられ、さんざんな目に遭いながらも、彼の徳を慕う数々の優れた部下に守られ、諸国を流浪することになります。 諸国の君主に冷たくあしらわれ、心身ともぼろぼろになりながらやっとのことでたどり着いた斉の国で、時の君主に厚遇される場面を読みながら、あふれる涙を抑えることができませんでした。 重耳は、齢50を越えて、祖国晋が彼を真に望む状況になってから、おもむろにという感じで帰還する。 その後周王朝を助け中華の盟主となるのですが、部下に守られ、時には部下にリードされながら、堂々と歩むうちにいつの間にか名君になっていたという感じを受けました。 読んでいて鋭く迫ってくるような作品ではありませんでしたが、読後の心地よい、重みのある作品として思い出に残りそうです。

「晏子」 宮城谷昌光 (2000.5.10 完読)

 久々に春秋時代の中国を訪れました。 同時代の斉の国の歴代君主に仕え、斉を支えたと言ってもよい晏弱、晏嬰親子の物語です。 この時代の政変はめまぐるしく起こり(と言うより起こされ)、政局の座にいるものが、次々と惨殺され交代していく。 その中で重要な役割を果たしながら、政争に巻き込まれず生き残っていく晏弱、晏嬰は、一貫として人ではなく国の安泰を願ったからでしょうか。 武功で名をはせた晏弱、ものの考え方を説いて功績のあった晏嬰、それぞれ特徴は違っても芯の強さは共通したものです。 著者は、晏嬰を描きたいために筆をとったようですが、晏弱を描いた部分の方が小説としては生き生きとしていておもしろいように感じました。 これでまた、春秋時代の虜になりそうです。

「青の炎」 貴志祐介 (2000.3.18 完読)

 黒金化成(株)の水谷さんがメールで薦めてくれたので早速読んでみました。 ちょっと高校生にしては出来過ぎた感じのする主人公が、二つの完全犯罪(殺人)を意図し実行する。 読者も納得するようなシチュエイションだけに、思わず成功を祈ってしまいました。 主人公があれこれ考えながら計画していく過程がなかなか読み応えがあるのですが、私にはむしろ同級生の紀子の存在がこの著には大きく思えました。 暗くなりがちなストーリーのなかで、読者の心を和ませてくれるような気がしました。

「ル−プ」 鈴木公司 (2000.2.20 完読)

 この作品は、前2作と趣を異にし、最初からSFの世界に引き入れてくれますが、私には一番読み応えがあったように思います。 しかし、読み進んでいくうちに前2作の物語が、ループというコンピュータで作られた世界らしいと言うことがわかり、貞子はどうしたのだという疑問とともに多少混乱状態のまま読み終えることになりました。 この後の作となる「バースデイ」のなかの3番目のストーリーからこの辺のことがはっきりするのですが、多少わかりづらいのは否めません。 しかし、それだけ、厚みのある展開が構成されていると言うことで、私には、思い出に残るシリーズとなりました。

「らせん」 鈴木公司 (2000.2.11 完読) 

 この作品も「リング」と同様ホラー性のあるストーリーに、謎解きの面白さのある推理小説性、思い切った展開のSF性、哲学的な表現などが加わり、厚みのあるフィクションになっています。 作者が3年かけて書き上げたというだけあって、DNAやウイルス遺伝子の情報が絡む謎解きにはなかなか説得力があり、楽しませてくれますが、SF性が色濃くなるほど怖さがなくなり、貞子の恐怖から逃れられる気がしました。 ただ、最後の展開は、余りにもSF的で、こんな終わり方でいいのかなという感じがしました。(この後の「ループ」、「バースデイ」でこのつながりが明らかにされるのですが)

「リング」 鈴木公司 (2000.2.8 完読)

 この著を書店でふと目に留めて、全く先入観もなく読み始めたのですが、読み始めなきゃ良かったと思いながらも、あっという間に読み終えてしまいました。 この著を私が手にしたのも、「貞子の念力によるものかもしれない」 などとちょっと言ってみたくなるほど、貞子の怖さは半端じゃありません。 私は、今までホラー小説というジャンルのものを読んだ記憶がありませんが、著者の卓越した才能を感じざるを得ません。 ビデオテープという意表をついた身近な媒体にオカルト的な怖さを盛り込んだ物語も、多少SF的な、全く違う次元の怖さを暗示して終わります。 読み終えた後、この著には続編があり、話題作として映画にもなったことを知り、さもありなんと納得したのでした。

「沈まぬ太陽」 山崎豊子 (2000.1.30 完読)

 御巣鷹山の大事故をはさんで日航内部で繰り広げられる出来事をファクトノベルとして描いた大作です。 著者の豊富な取材力によって重厚な作品となっていますが、とにかく調べたことを皆書いたという感じのところもあり、特に第2巻(アフリカ編下)、第3巻(御巣鷹山編) はかなり読み飛ばさないと投げ出したくなってきます。 しかし、さすが第4,5巻の会長室編になると俄然おもしろくなり、政官民の利権が絡んでの癒着、日航内部で利権をむさぼるほんの一部の人の腐りきった体質、これを正そうとする外部から送り込まれた会長とそれをサポートする日航内部の人たち、それぞれが鮮やかに描かれています。 結局は、政治力と内部の抵抗に負けて会長は日航を去ることになりますが、彼の厳しくかつひたむきな働きにより陰の部分が明るみに出、徐々にではあるが改善されていく。 読み終わっても、なお収まらない憤り、嘆きと、ちょっぴり下げた溜飲とに包まれ、しばしボーとした私でした。

「首位戦争」 清水一行 (2000.1.20 完読)

 ホンダ vs ヤマハのバイク戦争の顛末をファクトノベルとして描いた作品である。 バイク業界2位のヤマハが後もう一歩と言うところまでシェアーを伸ばすが、4輪に傾注していたマーケティング戦略を2輪に切り替えて本腰を入れたホンダに完膚無きまで叩きのめされると言うストーリーです。 人事を好き放題に操るヤマハのワンマン社長のもとで、社長お気に入りの人物が着実に実績を上げ、旨く立ち回って地位を築き、ヤマハ発動機の社長に昇り詰めながら、果敢にホンダに挑戦してボロボロに敗れ去る様が生々しく描かれています。 ワンマンであるが故に楽器会社が多角的な経営に成功し、ワンマンであるが故に失敗する。 そんなこともありましたが、デジタルの世界に活路を見いだして展開している技術先行型のヤマハを私は好ましく思っています。

「雪の狼」 グレン・ミート (1999.11.3 完読)

 かってソヴィエトに君臨したスターリンの死は謎に包まれているようです。 ここに目を付けた筆者は、こんなことが起こったとしても不思議はなかったと思わせる大胆なストーリーを展開します。 舞台は冷戦時代の米ソで、おきまりのKGBとCIAのせめぎ合いと言ったところですが、絶世の美人が絡んでくるのが救いとなっています。 終局を迎えるころに、ストーリーがもう一段掘り下げられるところが素晴らしい。 30年ほど前にハヤカワノベルズを夢中で読んだ頃の興奮がよみがえってきましたが、ちょっと古いかなと言う感じが無くもなかったと言うところでしょうか。

「5日間のパリ」 ダニエル・スティール (1999.10.20 完読)

 著者の最近の作である本著を読みましたが、彼女の作にしては奥行きが無いというか、書き流しているというか、あまり感動は覚えませんでした。 大手製薬会社の娘婿として活躍する男性と、アメリカ大統領に立候補する男の妻が現状に嫌気をさして結びついていく。 この二人のそれぞれの心の葛藤を描いた作なのでしょうが、私にはいま一つ作品にのめり込むことができませんでした。 長年連れ添った妻にふと幻滅を感じるとき・・・・考えてもぞっとします。

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「風雲児」 白石一郎 (1999.9.15 完読

 山田長政についてはおぼろげな知識を持っていましたが、この著を読み「ああ、こんな人だったのか」と認識を新たにしました。 そして、日本の遙か南の国々で、多くの日本人が武力をかわれて活躍したことを知り、また、その中で顕著な働きで国の中枢人物の一人になったのが長政であることを知り感銘を受けました。 最後は、いかにも日本人らしい生き様を見せて、まるで古代の物語のような終焉を迎えるのでした。 昔も今も日本人は日本人なのだなと感じた読後でした。

「梟の城」 司馬遼太郎 (1999.9.3 完

 久しぶりの司馬遼太郎でしたが、文章がすばらしい。 流れるようで、しかも、美しい。 今まで歴史上有名な人材に関する彼の小説を楽しんできましたが、彼の作にもこんな娯楽性の高いものがあるんだなと言う感じでした。 伊賀の二人の忍者の生き様が対照的で、最後にどのような対決・決着が待っているのか胸躍らせて読み進んでいきました。 ただ最後が迫力が無いというか、あまりにも、巧妙な筋書きにちょっと物足りなさを感じましたが、彼の名著の一つといえるのではないでしょうか。

「いまだ 下山せず」 泉 康子 (1999.8.23 完読) 

 ふと本屋で手にした本著ですが、一気に読み終えさせられました。正月に槍を目指して山入りした3人のパーティーが消息を絶ち、ヘリの捜索でも全く見つけられない。 ノンフィクションでありながら、ここからの調査で、次々と糸をたぐるように事実が積み重ねられて行く過程では、推理小説では味わえないような謎解きの世界へ引き込まれていくような気がしました。 しかし、私にとって驚きであったのは、この調査、捜索に膨大なエネルギー(人的にも、時間的にも)が注ぎ込まれたことで、特に著者の力の注ぎようは尋常でないものを感じました。 この本を読んで、山での遭難というものが遭難した当人が考えてもいなかったようなエネルギーや仲間意識や人間愛なんかを吸い込むことになるのだなと感じたのでした。

「殺人山行穂高岳」 梓 林太郎 (1999.8.20 完読)

 私としては久しぶりに読む推理小説となりますが、私が8月はじめに槍から北穂に縦走したことを知り、友がこの本をくれたのです。 このあいだ私が通ってきたばかりの大キレットで連れを突き落とすという何ともやりきれない殺人を追求するものですが、ストーリーはともかく、この著の中で、「転落事故は危険な場所で起きるよりもむしろ、危険個所を通過してほっとしている様な時に何でもない所で起きるものだ」と言う趣旨の記述が妙に印象深いものがありました。

「海王伝」 白石一郎 (1999.8.18 完読)

 この著は前述の「海狼伝」の続編に当たるもので、主人公の笛太郎がいよいよ船大将として、南海に乗り出し大活躍をするものです。 やはり、海賊たちとの海の合戦にストーリーがさしかかると胸躍るものがあり、潮の流れ、風の向きに応じた戦術の巧みさで相手を下す段になると、思わず快哉を叫びたくなりました。 そして、メインテーマである父親との出会い。 センチメンタル性の全くない著者の描写が心地よく胸に響きます。 異母弟との出会いと決闘の場面も同じ意味で印象的でした。 笛太郎がいよいよ念願の明に向かうところでこの物語りは終わっていますが、是非続編が書かれることを期待したいものです。

「海狼伝」 白石一郎 (1999.7.30 完読)

 確かに著者の白石氏が言うように、日本には海洋小説がほとんどないように思います。 そのせいか、小説の前半は、やや解説調のところが多く物語としての運びに軽快さがないように思いましたが、村上水軍と織田信長水軍との合戦や、今は村上水軍の一員となった主人公が生まれ育った対馬へ帰り昔所属した宣略将軍率いる海賊に会いに行くあたりから痛快な海の物語を楽しませてくれます。 海から見た戦国時代を垣間見るのもこの物語の楽しみの一つですが、最後に繰り広げられる宣略将軍との戦いは、子供の頃外国の海賊映画を見たときに味わった痛快さを思い出させてくれました。 この著は、8回目の候補で直木賞に輝いたそうですが、選者が何度も選外に落としながらも最後には取り上げざるを得なかった重みのある作品として後世に残るのではないでしょうか。

「侠骨記」 宮城谷昌光 (1999.7.3 完読)  

 本著解説の山崎純一氏によりますと、侠骨とは、「我が身を惜しまず、人の難儀を救いに駆けつけ、生死の境を渡っても、才能を自慢せず、施した恩を誇るのを恥とするもの」という意だそうです。 宮城谷氏は中国春秋時代に生きた4人の侠骨の人を本著で描いていますが、どれをとっても、数奇の運命をたどりながら、驚くべき才能と行動で人を動かし、国を動かしていく様は感動を呼ばずにはいられません。
 特に最後の「買われた宰相」の百里奚の物語は大変面白く読めました。自分の才能を信じ、自分の売り込みに費やす長年月を経、齢70歳を過ぎて秦から請われたときには逃げ出し、奴隷となっているところを5匹の黒い牡羊と交換に秦公に召されることになる。その後名宰相となり百歳を越えて長らえたという。読後の余韻が心地よい著書でした。

「無言の名誉」 ダニエル・スティール (1999.6.25 完読)

 なにげなく本屋さんで手にした本書ですが、すばらしい感動を与えてくれました。 戦前の日本人女性を代表するような性格の19歳の主人公が、いやいや留学に赴いた米国で遭遇する様々な体験と愛。そして戦争の勃発と収容所生活。 読み進めているうちに自分が主人公のヒロコになったような気がするほど、余りにも日本人が旨く描けているのに驚いたのですが、著者の流行作家であるスティールさんが実は主人公のモデルになった女性に育てられたと後書きで知り、納得したのでした。 日本人の収容所生活については、初めてその様子を知ることができました。 Situationは全く違いますが、山崎豊子著「不毛地帯」に描かれているロシアでの日本人収容所生活の様子とダブらせて感慨深いものがありました。 本書が、米国でベストセラーになったのは単に人気作家による著書であっただけではないように思います。

「十一番目の戒律」 ジェフリー・アーチャー (1999.4.7 完読)

 久しぶりにアーチャーを楽しみました。彼の洒落っ気のある作風にひかれその全作を読んでいる積もりでいましたが、いつの間にか2作が発刊されていたのでした。本作もスケールの大きな物語の設定と緻密な構成とでぐいぐい引き込まれてしまいました。読んでいてはらはらさせられたのは、物語のサスペンスではなく、作中のロシア大統領があまりにも粗野で凶暴に描かれていることでした。しかし、この作者の特徴として、重要人物のスピーチをかなり克明に記述することがありますが、ロシア大統領が選挙戦で訴えるスピーチはかなり説得力があるものでした。
 CIAの一員として、淡々と仕事(暗殺)を企てるプロフェッショナルの主人公が最後の大団円に向かってばく進するとき、作者が一体どう決着つけるのか興味あるものでしたが、最後の最後の結末は、私の期待通りのものでした。

「夏姫春秋」 宮城谷昌光 (1999.3.23 完読)

 先に読んだ「孟嘗君」が非常におもしろかったので、著者の出世作である本書を読みました。大国である楚と晋に挟まれた小国鄭の妃として生まれ、同じく小国の衛に戦略的に嫁がされて以来、生まれ持った怪しくも美しい容姿と、触れると風を感じさせる姿態に数々の国王級の男が魅入られ、そして死んでいく。そんな彼女の最後の幸せな巡り会いに至る人生がベースになっていますが、物語は中国春秋時代の大国、小国がいかに生き抜いていくかを、時代を動かした人々の人生像で綴られていきます。特に、小国が両方の大国に気を使いながらしたたかに生きる様は興味深いものでした。また、ここでも孟嘗君を読んだときに感じたように、個人が人を動かしそして国を動かす、そのスケールの大きさに感動しました。

「私の被爆体験記」・・・末弟祐策のことなど 山下博子 (1999.2.28 完読)

 私は広島に住みながら、数多くある原爆体験記を意識してか無意識のうちにか読むのを避けてきたように思います。このたび、家内からこの小冊子を手渡され何となく読む進むうちに、被爆のときの悲惨な状況や一緒に被爆した弟の死の状況に涙し、人々、特に夫の愛に包まれて力強く生きる筆者に大きな感動を覚えました。原爆症の病と戦いながら、未熟児として産まれた男の子を懸命に育てる様子は常人には想像もつかないような大変なことに思えました。その子は両親や周りの人々の愛にはぐくまれ立派に育ちましたが、彼こそは、桐朋学園を卒業した後、ジーパン姿でカラヤンの代理で第九を振ったことで有名になった日本が誇る国際的指揮者、山下一史さんなのです。

「陰謀の日」 シドニー・シェルダン (1999.2.25 完読)

 UFO墜落事故にまつわるサスペンスであるが、相変わらず、読者をぐいぐい引きつける組立は見事で、ちょっと唐突に思えるエンディングまで一気に読み終えました。伏線も見え見えのところがあり、最後にあかされる黒幕も想像が付くなど、作風に慣れてきた私には今ひとつの感もありましたが、楽しく読むことが出来ました。でも、「ゲームの達人」を始めとする初期の数作までは、もっと作品に奥行きと言うか重厚さがあって、しかも面白さも半端でなかったように思います。
 本作のあとがきにある以下の記述はちょっと気になるものでした。
 「”スターウォーズ”関連研究に携わった英国科学者のうち、六年間の短い間に、実に23人もが謎の死を遂げている。その全員が、UFO調査を含む電子兵器の開発に携わっていたのである。」
 そして23人の死亡年月と死因とが記されている。

「孟嘗君」 宮城谷昌光 (1999.2.17 完読)

 中国戦国時代のひとときを生きた孟嘗君とその育ての親の風洪にまつわる一大ロマンを文句なしに楽しみました。この小説に一貫して漂う”仁”の大切さは、この二人に共通した”人を大切にする心”に読みとれます。また、いわゆる説客とも言うべき雄弁者が、国の行方を左右するという場面で自分もしくは敵国の君主に意見を進言する場面がたびたび登場し、多くの場合君主がそれを聞き入れることに興味を覚えました。弁舌だけでなく思考、行動に才覚のある人が時代を動かすのは世界共通かも知れませんが、中国のこの時代は特にそうであったように感じました。

「日蝕」 平野啓一郎 (1999.2.9 完読)

 何と表現したらよいでしょうか。なんとも異様な雰囲気漂う小説でした。こんなに難しい漢字を並べて、もってまわったような言い回しの小説は初めてです。作者にどんな意図があるのでしょうか。中学時代に尾崎紅葉を読んだときよりもまだ読み進むのに苦労しました。
 でも途中からどんどん引き込まれて、あっという間に読み終えてしまいました。実と虚の間のシームレス感は見事だと思いました。難しいことは分かりませんが、ただただこの小説の持つ雰囲気に浸りきったひとときでした。

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